「赫い月照」  谺健二 C-

ものすごいボリュームのミステリでした。シリーズものだったのか、ということを読んでいる途中に察しつつも(3作目でした)そのまま最後まで読了しました。
下敷きにされているのが、いくつかの実際の事件(神戸の震災・酒鬼薔薇事件など)で、その事件が引き起こしたものや、何故起こったのか?ということを考えたいベクトルと、懐かしい竹本健治の「ウロボロス」的な大文字と小文字の世界(作中作)など、興味を引かれるポイントは結構あって。そして密室連続殺人事件。

非常に陰鬱で陰惨。中に出てくる「傷口からずっと血を流し続ける」状態が、物語全体の下敷きになっていて、登場人物のほとんどが膿んだ傷の雰囲気を漂わせている。「フツウ」なのは、役に立たない(らしい)探偵さんと、刑事さんぐらいで、あとはみんなどこか壊れている、おかしくなっている。それで非常にボリュームのある作品なので、読んでいてとても疲れました。一人称の人の心が病んでいるのを、ずーっとおいかけるというのは疲れるもの・・読後感も寂しい(ショックを受けるには枚数が多すぎて、逆に麻痺しました)感じだし。

世界を壊したいのか。世界はもともと壊れている、といいたいのか。冷静さと優しさ、狂気に染まらない普通さを探偵さんに与えている割に、なんだか絶望している小説だなあ、と思いました。