「箪笥のなか」 長野まゆみ A


こんな風に世界を変えることもできる人だったのか!
と素直に驚いて、かつ、面白かったです。
長野まゆみといえば、旧かな使いに耽美&少年、という印象が強く。デビュー当時はほとんど読んでいて、「天空議会」「野ばら」「テレヴィジョン・シティ」あたりはとても好きです。「碧空」あたりから微妙に趣味がずれたのか、自分が大きくなりすぎたのかで自然と疎遠になっていたのですが。この作品はやたらと評判が良いので、久しぶりに手にとってみました。で、面白かった。
台詞もすべて地の文に開かれている独特の語り口や、予告なく過去と現在を行き来するきれぎれの物語進行、そして世界は淡々としすぎているように感じるかもしれません、が私にはちょうど良い淡々具合。
主人公は30代にさしかかった女性(画家?)。そして、3つほど年下の弟。あとは、彼女の暮らす一戸建ての大家さん、弟の妻、弟の子供など、登場人物は大変少ないです。
この姉と弟を中心に、ある「紅い箪笥」を引き取ることから物語は始まり。その箪笥のせいか、はたまた「幼いころから不思議なものが見えたり聞こえたりする弟」のせいか、不思議なことが日常におこりだす、その風景を連作短編の体で綴った作品です。

『日本酒を飲み干す箪笥の引き出し』
『酒を求めて歩き出す古い雛』
『水に漬けておいた蜆が桜の花びらに変わる』

「描きたいのは物語というより、ある風景が先にあって、それをつなぐように文章を紡ぐ」というインタビューをかつて読んだ記憶があるのですが、まさにそんな感じ。
淡い不思議な風景は、イタガキノブオの「ネガティブ・ストーリー」や川上弘美の不思議世界が好きな人にはお薦めしたいなと思いました。

頭の中で勝手に映像化して楽しんでましたが、姉役がうまくはまりませんでした。お姉さんはちょっとつんとした、一見冷たそうで人付き合いがあんまりないマイペースな感じ。弟くんは、やっぱり淡々としてて他人によく「わからない人だ」と思われがちだけどフレンドリーに笑うことができる細い人だと思う。で、弟くんの奥さんは、弟くんと同じ世界に並べて、かつ”理系”(作中でそういわれていたような気が)
ということで、弟の妻は麻生久美子が良いです。弟はARATAとか松田龍平とか。子供時代の姉弟は、演技のうまい福田麻由子とか神木隆之介とかでどうでしょうかー。