「落下する緑−永見緋太郎の事件簿」 田中啓文 A-

田中啓文といえば、「蹴りたい田中」しか読んだことがなかった。ので、こんな作風をお持ちだったのかー!と驚愕しながら楽しみました。デビュー作「落下する緑」から始まる、色と音楽をテーマにした連作短編集です。永見緋太郎は26才の新進気鋭のジャズ・テナーサックス奏者。彼を息子のような目線で見ている、51才の唐島英治(こっちはトランペット吹き)が一人称かつドジではないワトソン役で語っている作品です。
ミステリとしてはやわらかく、ジャズがテーマになっているといってもそちらもやわらかく、一見さんを断らない雰囲気。謎の難しさを競うのでなく、音のある世界の謎を描いている感じ。
ジャズに詳しくないけど、自分が好きだったライブハウスの雰囲気、インプロビゼイションを最初に聞いたときのぞわぞわぞくぞくを思い出す感じ!大変に読んでいて楽しかったです。

とにかく、永見くんの性格が大変に大変にかわいらしい。ジャズが好きで好きで好きで、それ以外のことが眼中になく、でも審美眼がしっかりある。一見人間関係で混乱を起こしそうな永見くんをはらはら見守っている唐島氏の杞憂も、大変にかわいらしいのです。
ステキな師弟関係はもうひとつあって、尺八をはさんだデイブと師匠。デイブのはた迷惑な性格ながら、でっかい身体でうるうるしている姿が想像できるところがなんともかわいい。

たいへんさらさらと読める作品。表紙のセンスが大好き!