「村田エフェンディ滞土録」 梨木香歩 A


びっくり切ない物語でした。この方の「家守綺譚」が好きな人はぜひ読むべき。世界が似ているなー、と思いながら読んでいたら、本当にリンクしてしまったのでびっくりしました。
物語冒頭は1899年。イスタンブールに文化交流のため招かれた村田君が主人公。滞在している場所がちょっと変わっていて、イギリス人の経営者圏て、ギリシャ・ドイツからきている学者さんも住んでいて、もちろん地元トルコの下働きもいて、国際色豊か、ごちゃごちゃな不思議な家。家の素材そのものにも不思議が混ざっていて、現実の不思議と、空想の不思議とが両方あるのが素敵です。
良い意味で平易な文章なのに、最初の4章くらいまでは時間と場所を隔てた世界観にうまく溶け込めなかったのですが、2回くらい読んで、「誰がどんな人か」がつかめれば、あとはひたすら楽しい。左の表紙の折り返しに出ている人物紹介をよく読むべきでした。オットーと村田の会話とか、雪合戦の場面とかが特に大好き。表紙などの装丁、挿絵を含めた全体がすごく素敵で、軽くて薄い本なのに、すごく内容が濃いと思います。

「老女と少女」という組み合わせのお話で好きなものが多いこの人ですが(「西の魔女が死んだ」と「りかさん」はほんとに好き)、男性が主人公の作風もいいなあと改めて感じました。


「私は人間だ。およそ人間に関わることで私に無縁な事は一つもない…」