「真鶴」 川上弘美 C

「いなくなった」もののお話。
この小説を知ってからどうしても真鶴に行きたくて、連れてってもらった。しかし、小説のなかみはしらなかった。
東海道線、藤沢を出てからしばらく市街地を走って、急に海の気配と山の合間に入るあたり。太陽が強くなるイメージ。熱海に向かっていくかんじ。わけもなく抱いていたイメージは陽性のもの。
そして読んだ。
失踪してしまった夫をもつ主人公。母と娘と女三人で暮らしている。家庭のある男性と付き合っている。そして何かにひかれるように真鶴を訪れ、目に見えない気配と対話する。
なんて陰鬱でなんて読んでいてつらい。なのにことばがすきでその分倍でつらい。ことばのつかいかたは、息遣いや気配や匂いみたいなもので、それらがすきだなあということはそのひとが本当にすきだということだ。という意味で私は相変わらずこの人に夢中である。でもこのものがたりは息がつまり過ぎる。
感情は感覚は結局人ひとりのもの、自分ひとりのものだなあと思う。でも、ひとはひとやそれいがいのものににじんだりゆらいだりする。どんなに丁寧にしても親切にしても絶対に自分勝手だ。それが滲み出すか出さないかは別のものとして。
ああつらいああ面倒だ。でも読んでしまった。
そしてきっともう一度、私は真鶴に行くんだろうなあ。